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猿の仕事 [on the web]

柴田元幸編集長のウェブ版でしか読めない編集後記、雑記 etc…
本誌とはまた違った編集長の一面が垣間見られるはず?

2009.03.23

たまには、予告をやります。
4月20日発売『モンキービジネス』Vol. 5 が「対話号」であることは Vol. 4 でお知らせしましたが、どんな「対話」かというと、まず----

川上弘美×小川洋子対談
古川日出男による村上春樹インタビュー

----僕も両方の現場に立ち会いましたが、いやーこの雑誌やってよかったなあとつくづく思いましたね。ゲラに目を通していても、実に読み応えがあります。

もうひとつ、歌人の穂村弘さん企画・指揮の下、「うたの猿山」と称して、ジャンル間・言語間の詩的対話をやります。

  1. 俳人1が猿について俳句を詠み、歌人1が猿について短歌を詠み、詩人Cが猿について詩を書く。
  2. 英語・日本語バイリンガル人間がそれらの俳句・短歌・詩を英語の俳句・短歌・詩に翻訳する。
  3. 俳人2が三つの英訳をそれぞれ俳句に「翻訳」し、歌人2が三つの英訳をそれぞれ短歌に「翻訳」し、詩人2が三つの英訳をそれぞれ詩に「翻訳」する。

----以上、俳句、短歌、詩、ともに5本が出来上がる計算です。参加者は穂村弘、小澤實、テッド・グーセン、小池昌代、佐藤文香、水原紫苑、四元康祐各氏。

レギュラー陣に加えて、新人作家COMES IN A BOXの作品なども掲載します。乞うご期待----

2009.02.20

『モンキービジネス』のレギュラー小野正嗣(以下、原則として敬称略)が『小説トリッパー』2008年冬号に発表した 「線路と川と母のまじわるところ」がめっぽう面白い。主人公の女性が、フランスの小さな町のカフェで見かけた老婆の記憶(聴覚上・視覚上の)を共有すると ころがとりわけ印象的。『モンキービジネス』で毎回執筆中の「浦ばなし」とは全然違う文体と設定を通して、じぶんと他人、いまと過去、ここと他所、等々が 混じりあう小野マジックがここでもあざやかに実現されている。この作品が映像化されるとしたら、僕は冒頭に出てくる、駅で大きなトランクを脇に置いた小さ なおじさん----「それはおじさんが入ってしまいそうなほど大きい。いや、おじさんが小さ過ぎるのかもしれない」----を演じたい。

『モンキービジネス』2号に「どんぶり」で登場の戌井昭人が『新潮』2009年3月号に発表した「まずいスープ」もよ かった。特に、後半の盛り上がり。同じく2号に短歌集「眠り課」を寄稿した石川美南が『すばる』連載「ききみみは左耳」でも書いていたとおり、まっとうに 社会人になれと説く父母とは違った、「もうちょっと適当でいいんだぜ」と身をもって示してくれる「おじさん」について誰かがまとまった論を書くべきだと前 から思っているのだが、この「まずいスープ」は、まっとうな大人になれと説くべき父親なのに、まるっきり父らしくなく、きわめて正統的におじさんしている 父親が出てくる。

川上弘美の新刊『どこから行っても遠い町』 (新潮社)は、「町」の思い描き方の魅力において『モンキービジネス』毎号掲載の「このあたりの人たち」にも通じる。川上弘美の書く「町」は、いろんな人 がいろんな形で交わりながら、ジグソーパズルのようにぴたっと合っていくのではなく、ゆるやかに重なったりすれ違ったりしていって、どこまで適当なたとえ かわからないけれど、絵と色が微妙にずれている昔の印刷物を思わせる味わいがある。一方『新潮』随時掲載の「aqua」「aer」といったタイトルの(お そらく)連作では、また別の新しい展開を予感させる。

1号では対話で、4号には短篇「『物理の館物語』」で登場の小川洋子は、逆に境界線をあくまで明確に描くことで胸を打つ。新刊『猫を抱いて象と泳ぐ』 (文藝春秋)の、廃棄されたバス、ケーブルカーなど閉じた空間のくっきりした輪郭は、むろんこの小説最大のモチーフであるチェス盤ともつながる。『すば る』ではじまった連載「原稿零枚物語」は、また別の新しい展開を予感させる......と、どうも僕は、川上さんと小川さんをどうしてもペアで考えたいらしい。 が、これほど魅力的なペアが日本文学にいま存在するというのは実に素晴らしいことではないか。

ほぼレギュラー古川日出男は、『Coyote』36号に「ブ、ブルー」を発表。これはダンサー黒田育世とのコラボレーションのために書かれたテクストで、大作『聖家族』 (集英社)が「走る」文章だったとすると(といっても一方向のみにではなく、数方向に同時に走る、そんな走り方があればだが......)、これはそれこそダンス のように(だが同じく、数方向に同時に)跳躍する文章という感がある......などといった呑気な感慨は、2月15日、川崎市アートセンターで行なわれた黒田育 世との共演を見てぶっ飛んだ。ここ数年の古川日出男の仕事の傾向を乱暴にひとことでまとめて、たしか佐藤良明もどこかで言っていたとおり、言葉を通して言 葉以前のもの、言葉が生まれる前の事態を浮かび上がらせることだとするなら、黒田育世とのステージはそのひとつの、きわめて雄弁な「翻訳」と言えるのでは ないか......と、ひとまず強引にまとめておこう。

「あかずの日記」毎回掲載の岸本佐知子の、『ちくま』連載「ネにもつタイプ」も毎回楽しいが、2月号の「万物の律儀 さ」には特にうなった。「あるものが、ある場所にあったら別の場所にはない」というルールにすべてのものが従っていることの不思議。パスカルにも通じる テーマだが、しかし真にすごいのは、そこから「その律儀さに、自分一人が置いてけぼりをくらうのではないかという不安と焦り」が生じるという展開。自分が 「万物」の仲間に入っていないのではないか、とはなんという哲学的な不安!(ところで、岸本さんの「あかずの日記」第1回「分数アパート」と、石川美南さ んの短歌集「眠り課」が東京創元社刊『年刊日本SF傑作選』2008年版に選ばれました。ばんざい!)

少し前になるが、毎号カフカを漫画化している西岡兄妹の『救済の日』 (青林工藝舎)も、こういう形の戦争文学もありうるのかと驚かされ、小説であれ漫画であれほかに誰が今日ここまで正面から戦争を描いているだろうか、と感 じ入った......と、こうしてみると、ほんとうに毎号、すごい人たちが書いてくれているんだなあ、と(まあ、すごいと思ったから書いてくださいとお願いしてい るのだから、当たり前といえば当たり前なのですが)つくづくありがたく思う。

そういえば、3号<サリンジャー号>を成立させてくださったJ・D・サリンジャーさんが久しぶりにThe New Yorker2009年4月1日号に発表した新作も見事だった......というのは残念ながら嘘です。

追伸:1号と3.5号登場の川上未映子さんが詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』(青土社)で中原中也賞を受賞。ばんざい!おめでとう!

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