「モンキービジネス」といっても、猿についての雑誌ではないし、ビジネスについての雑誌でもない。
とはいえ、たとえば誰かがこの名を目にして、猿がせかせか仕事をしている姿を思い描いたとしても、あるいは、そういえばマリリン・モンローの出てる、猿が若返りの薬を発明する『モンキー・ビジネス』って映画があったっけな、などと思い出す人がいたとしても、代表者としてはいっこうに構わない。
というのも、責任編集者としてかつぎ出してもらったとはいえ、これがどういう雑誌になるのか、代表者にもよくわからないのである。英語でいう、Your guess is as good as mine(あなたの推測も私の推測に較べて劣りはしない=実は私にもよくわからないんです)というやつである。
もちろん、海外・日本の新しい小説やエッセイを中心に、新しくない小説やエッセイなんかもちゃっかり混ぜて、こっちが面白いと思う文章を並べた雑誌にしたいとは思っている。執筆陣だって、嬉しいことに、我々が最高だと思う書き手が勢揃いしてくれた。
とはいえ、我々には、ある一定の「コンセプト」に基づいて特定の世代なり層なりを「ターゲット」にする気もなければ、それらの世代なり層なりを相手にいかなる新たな「ライフスタイル」を提示する気もないし、もちろん「役に立つオススメ情報」なんかは薬にしたくてもないであろうことは約束できる。あるいはまた、忙しい毎日からの爽やかな息抜きの場を作ろう、なんてという殊勝な精神なども、これっぽっちも持ちあわせていないことは断言できる。
情報として有益であることも、せわしない現実から逃れた一服の清涼剤であることもこの雑誌はめざさない……などと偉そうに見得を切る気はないし、誰かにとってたまたまその一方かもう一方かになったとしたらそれはそれで慶賀すべきことだと思うが、べつにそれを積極的に標榜するつもりはない。また逆に、芸術的・政治的・社会的に過激な内容を盛り込んで体制に挑もうとか、社会に反逆しようなどという根性なんかもないことはいまさら言うまでもあるまい。まあ、これまたべつに積極的にめざすわけではないが、「こいつら、何やってんのかねえ」くらいに思われるのが一番妥当かなという気がしないでもない。「これって、ただの悪ふざけじゃないの」でもいい。
……で、その、「悪ふざけ」にまあいちおう近い英語で、僕の好きなフレーズが、「モンキービジネス」なんですね。
いうまでもなく、「モンキービジネス」とは、すでに映画や音楽やバンド名としてさんざん使われているフレーズだが、こちらの念頭にあるのはもちろん、「毎日同じに学校行って/文句言っても意味なくて/抗議したってみな却下/ったく、世の中やってらんないぜ……」と機関銃のように歌いまくるチャック・ベリー不朽の名曲「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」である。誰もが知る、日々生きることのかったるさを、あれほどストレートに歌って、それであれほどユーモラスかつ解放的になっている芸術作品を僕はほかに知らない。あの名作の解放性を我々もめざすのである、なんて大きなことはとうてい言えないが、いちおうあのスピリットを、はるか向こうに見えている導きの星だということにしておこう。
柴田元幸

柴田元幸(しばた もとゆき)
1954年東京生まれ。アメリカ文学研究者、翻訳者、東京大学文学部 教授。
ポール・オースター、スティーブン・ミルハウザー、スチュアート・ダイベック、レベッカ・ブラウンなど、現代アメリカ小説の名訳で知られる。
いま、もっとも信頼できるアメリカ文学の読み手。著書に『アメリカ文学のレッスン』、『愛の見切り発車』、『猿を探しに』、『柴田元幸と9人の作家たち ナイン・インタビューズ』、『アメリカン・ナルシス』、訳書にオースター『偶然の音楽』、ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』、ダイベック『シカゴ育ち』、村上春樹氏との共著に『翻訳夜話』、『翻訳夜話2 -サリンジャー戦記-』 ほか多数。